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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)166号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。

1 本願発明について

前記当事者間に争いのない本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第二号証(本願特許公報)、甲第三号証(昭和六一年七月一八日付手続補正書)、甲第四号証(昭和六二年一二月一〇日付手続補正書)によれば、本願発明は、油入変圧器の内部異常現象によつて発生するガスを監視し、内部異常現象を早期に発見するための装置に関するものであること、従来のこの種のガス監視装置は、油入変圧器の内部に既存の油面上のガス空間あるいは強制的に形成された油面上のガスをガス検出器を用いて検出し、変圧器内部のガスを監視するようにしていたこと、しかしながら、隔膜式コンサベータを備えた変圧器や窒素密封式変圧器においては油面上の空間のガス中に酸素が含まれておらず、酸素を含まないガスには反応しない一般的なガス検出器では検出が不可能であつたこと、本願発明は、右欠点を解消することを目的とするものであること、本願の特許請求の範囲に記載の構成、即ち、変圧器内のガスに大気を混入して酸素を付加した後、ガス検出器が、この酸素を含むガスを検出しうるようにすることによつて、酸素を含まないガスであつても監視が可能であるという効果を奏するものであることが、それぞれ認められる。

2 原告主張の効果について

引用例の記載内容が本件審決認定のとおりであること、本願発明と引用発明との間に本件審決が挙示する一致点、相違点が存在すること、ガス検出室内へ被検ガスを導入してガス検出を行う場合、ガス検出室内に残存するガスをあらかじめ排気管を用いて排気処理することが、本願出願前周知の技術手段であることは、原告の認めるところである。そうすると、引用発明に右周知の技術手段を適用し本願発明の構成とすることは、容易に想到することができたものと認められ、これに反する証拠はない。

原告は、本願発明が、本件審決挙示の相違点<1>及び相違点<2>に記載の構成を採用したことにより、検出室内に採取したガスと大気との混合が容易になるという、引用発明にはない特段の効果を奏するにもかかわらず、本件審決が、本願発明の右特段の効果を看過している旨主張し、被告は、原告主張の効果なるものは、本願発明の効果ではない旨主張するので判断する。

成立に争いのない乙第一号証(「実験技術ポケツトブツク」)によれば、ガス検出室内へ被検ガスを導入してガス検出を行う場合、ガス検出室内に残存するガスをあらかじめ排気管を用いて排気処理するに当たつて、排気を充分に行い、圧力差を利用して被検ガスを迅速に吸引し、測定の迅速化を図ることは、本願出願前周知の排気処理方法であつたと認められるところ、原告主張の効果は、それが達成される過程として原告が請求の原因四1(一)において主張する(1)ないし(3)の過程によれば、被検ガスの導入前の右周知の排気処理方法から技術常識上推測しうる効果にすぎないことがみとめられる。したがつて、原告主張の効果は、右の意味において本願発明によつて奏される効果であると認められる。しかし、引用発明に、ガス検出室内へ被検ガスを導入してガス検出を行う場合、ガス検出室内に残存するガスをあらかじめ排気管を用いて排気処理するという本願出願前周知の技術手段を適用し本願発明の構成とすることは、容易に想到することができたと認められることは、前叙のとおりであるから、そのようにしたものも、原告主張の効果を当然奏するものと認められる。なお、原告は、乙第一号証に記載の技術は、圧力差を利用して一種類の被検ガスを吸引するにとどまるものであるのに対し、本願発明は、被検ガスと大気という異なる種類の気体を導入して混合しているので、原告主張の効果は、本件審決認定の周知の技術手段からは得られない旨主張する。しかし、前記当事者間に争いのない本件審決の理由の要点によれば、本件審決は、相違点<1>を判断するに当たり、ガス検出室内に残存するガスをあらかじめ排気管を用いて排気処理することを周知の技術手段であるとしていること、相違点<1>及び相違点<2>の総合により格別の効果を奏するものとは認められないとしていることが認められる。したがつて、本件審決は、右周知の技術手段によつて原告主張の効果を奏するとしているものではないことが明らかであり、かつ、容易に想到できたと認められる前記周知の技術手段を引用発明に適用し本願発明の構成としたものが、原告主張の効果を奏することは前叙のとおりであるから、原告の右主張は採用できない。したがつて、原告主張の効果が、本願発明の特段の効果であるとする原告の主張は採用できない。

また、原告は、本件審決は、本件審決挙示の相違点<2>に記載された構成により、ガスと大気との混合がより容易になることを看過している旨主張する。しかし、原告主張の効果が、前記周知の排気処理方法による、即ち圧力差を利用することによる効果であることは前叙のとおりであるところ、大気を混入する場所を、ガス検出室へ至る手前の管路部とする引用発明と、ガス検出室とする本願発明との間にその構成の差によるガスと大気との混合が容易になるという効果上の差があることを認めるに足りる証拠はないので、原告の右主張も採用できない。

3 よつて、本件審決が、本願発明の特段の効果を看過したことを理由とする原告の本件審決を取り消すべき事由は、採用できない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

油入変圧器内の油面上のガス空間内のガスをガス検出室内に収容したガス検出器により検出するようにした変圧器のガス監視装置において、前記ガス空間とガス検出室とをバルブを介して連通するとともに、前記バルブが閉の状態であらかじめ前記ガス検出室内を排気する排気管路と、前記ガス空間内のガスを前記ガス検出室内に導入した後前記ガス検出室内に大気を供給する給気管路とを前記ガス検出室に連通し、ガス空間内のガスに大気を混入してガス検出器に供給するようにしたことを特徴とする変圧器のガス監視装置。

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